政策提案等の農政活動

 本県農業の現状や課題を踏まえた農地利用の最適化について行政機関等へ意見を提出するとともに、全国組織との連携のもと、政策提案や税制改正対策、組織対策などの要請活動に取り組んでいます。

県への政策提案の実施

県知事への意見書の提出

 埼玉県内の農業委員会や農業経営者の意見・要望等を踏まえ「農業委員会等に関する法律」第53条に基づき、令和6年度県農地等利用最適化の推進施策に関する意見書を取りまとめ、令和5年9月4日に埼玉県知事に提出しました。

令和6年度 県農地等利用最適化の推進施策に関する意見書
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意見書の提出(令和5年9月4日)

意見の内容

Ⅰ 農業振興等に関する施策の展開方向
1 農業振興施策の展開方向
現状の農業経営体には、規模拡大等を行い一定水準以上の利益を上げているトップ経営体、今後トップ経営体になりうる経営体、農業経営の維持が課題の経営体、農地の管理のみを行う者など経営状況により階層化している。また、各経営体に対する支援については、経営規模や内容に応じた到達目標とそれに応じた支援策が必要となる。そのため、現状の一律な経営支援ではなく、一つの施策についても、多段階に整理して展開するよう国に要請するとともに県としても検討を行うこと。
2 県内農業の魅力発信
県の目指す農業の在り方や価格の在り方などを含めた農産物生産現場の現状について、農業者のみならず県民にも深く理解してもらうことは、県内農産物の販売促進のみならず、本県農業の全体像の理解を促し、ひいては農産物価格の形成などにも影響する、きわめて重要な事項である。そこで県として、県民理解促進のための活動をこれまで以上に強化すること。
3 みどりの食料システム法に基づく県基本計画の理解促進
環境負荷低減のために制定されたみどりの食料システム法が令和4年7月1日施行され、令和5年3月30日に県基本計画が策定された。今後、農業分野における環境負荷低減の取組はこれまで以上に重要なものとなる。目標達成については、市町村や農業委員会などの関係機関が協力体制を構築していくことが重要となる。このため、市町村や農業者の計画や取組についての理解を促進し、目標が早期に達成できるよう推進すること。
4 農地情報管理等のデジタル化の再検証の実施
これまで、農地情報管理や農地利用意向把握のための新たな仕組みなどのデジタル化が農業の各分野で個別に進められてきたが、それぞれの取組のシステム上の連動や組織間の連携が不十分である。また、各事務を行うにあたりシステムやアプリなど異なるツールを活用しつつも似通ったことを行っているなどの問題も生じている。そのため、趣旨は良いものであっても現場で利用しづらい状況や、デジタル化自体の推進が円滑に進まない状況が生じている。以上の点から、現在行われているデジタル化の内容とそれに対応する行政事務について網羅的に整理し、現場で利用しやすいように再検証するよう国に強く働きかけること。
5 鳥獣害対策の普及推進の強化
市町村の鳥獣害対策の実施を強化するため、県として市町村の課題に対応した施策の情報提供を行うなど、市町村と連携しながら、実効性ある活動展開が行えるよう支援を強化すること。また、有害鳥獣の分布や被害状況、その対策などの情報を周知するとともに、県としての研究成果を現場段階で活用できるよう周知を徹底するとともに、利活用に関する支援を強化すること。
Ⅱ 農地の有効利用施策の推進
1 地域農業経営基盤強化促進計画の策定推進の強化
令和7年3月までに策定することとなる地域農業経営基盤強化促進計画(地域計画)について、市町村が想定している守るべき農地が網羅されるよう、(一社)埼玉県農業会議でも支援しているところである。県においても関係機関と連携し、市町村に対するよりきめ細やかな助言等、より一層の推進の強化を行うこと。
2 農地中間管理事業の制度周知の徹底
農地中間管理事業の推進に関する法律の改正により、新たに措置された 農用地利用集積等促進計画については、農地所有者・農業経営者に大いに関係することから、農地中間管理事業の推進と併せて制度の周知徹底を強化すること。
3 所有者不明農地の利活用の推進
所有者不明農地について、農地中間管理事業の活用ができることとなっているが、県内の利用実績はごく少数にとどまっている。所有者不明農地(相続未登記農地)については令和33年度末に恐れがある農地も含め14,61214,612hahaとなっている。今後の農地の有効利用のために、この相続未登記農地に対する措置を推進していくこと。
4 基盤整備に関する予算の確保
各市町村で策定される地域計画の目標達成のためには集約をはじめ、農地を利用しやすい形態や周辺環境を整備する必要がある。そのために基盤整備の予算の確保、併せて、農業者負担軽減措置の継続について、国に要請すること。また、現状で利用されている用排水路などの維持管理・再整備の実施を強化するとともに、農地を利用しやすいように道路の拡幅等についての地域理解促進を行い、実施について推進すること。
5 農地利用環境の高度化
農業労働力が減少するなか、スマート農業の実施は今後さらに必要性が増す。しかし、一定のほ場規模や利用環境が整わなければ、農業支援のための機械・装置が最大限の効果を発揮できないこととなる。そのためスマート農業に関して、基地局の設置やスマート農業を実践するための機械・装置の利用に向けた基盤整備の実施などの推進を強化すること。
6 遊休農地の有効利用のための支援
遊休農地を有効利用することは、農地の利用集積・集約化に有効である。集約化に資する遊休農地について、利用者が遊休農地の解消を行って利用する場合の解消費用の助成を措置すること。
7 営農型発電施設の適正な設置
営農型発電施設について、下部農地の営農が適切ではない事案が県内で もあり、地域の農業振興や農地の集積などに支障を来すこともある。そのため、許可において、営農確保の審査を県として専門知識を生かし適正に行うとともに、許可後の営農状況を把握し、不適切な場合は、許可取消し等も含めた厳格な指導を行うこと。
8 県における農地法等運用体制の強化
農地法第3条については、県に許可処分権限はないが、農地の権利移動の制限という農地法制の最も基礎的な部分を担う部分である。また、県が行う農地法の処分や小作主事の業務、農業委員会への助言等の場面においても、農地法第3条の知識は必要である。さらに今後は、人・農地に関する諸施策を推進する上でも、その知識の重要性は増すと考えられる。よって、県の農地法所管担当者への農地法第33条の知識の習熟促進と、習熟体制の維持を行うこと。
9 環境保全型農業の実施区域拡大のための推進強化
環境保全型農業直接支払制度の実施面積について、県として令和9年度354ヘクタールを目標としている。目標達成には、制度の理解促進や活動主体の育成などが必要となることから、市町村や農業者等に対し、制度の周知及び情報共有を行い、取組推進を図ること。
Ⅲ 農業経営体の確保と育成、経営の安定のための支援
1 価格形成への農業者の状況の反映
農業者が農産物を次年度以降も生産するためには、売り上げとして最 低限、かかったコストを売価に転嫁できなければ経営が安定しない。昨今の肥料や資材の高騰のように、経営コストが上がった場合には、そのコストを含め売価に転嫁することが必要となる。令和5年6月に改定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」においては、『適正な価格形成に向けた持続可能な食料システムの構築』が、食料・農業・農村政策の新たな展開方向では『適正な価格形成』が施策としてあげられており、国において価格形成に関与する方針が示された。そこで、農業経営者が次年度以降の生産が行えるように当該年の価格に生産コストがしっかり反映されるよう国に要請すること。
2 経営体の状況に応じた機械導入に関する施策の展開
担い手の育成のためには、経営規模や経営内容に応じた機械の導入が必要となる。全国一律の施策ではなく、対象とする経営体の規模などに着目した段階的な支援を可能とし得る助成措置を講ずるよう国に要請すること。
3 基本構想水準到達者の明確化と支援の拡充
認定農業者制度については、経営指標を目標とした経営改善計画に基づき、経営改善を行い、行政が支援を行う制度となっているが、経営指標以上の経営を行っている場合は、各市町村の任意で基本構想水準到達者等の位置づけをしている。しかし、そのような水準以上の経営体については、各種制度支援が受けづらい状況となっている。一方、このような経営体こそ、政府や県の目標の達成のための『協力者』としての位置づけに適した者である。このようなことから、認定農業者として、経営改善を行い、基本構想における経営指標を超え、経営内容も優良である場合の認定制度の創設について検討すること。
4 就農希望者への農業理解の促進
新規就農希望者については、農業に接したことがない者も多い。そのため、国で行っているインターンシップ制度の周知を行うとともに、経営体に対してもインターンシップ制度への理解を促し、登録経営体を増やすこと。
5 新規就農者の経営安定のための支援
新規就農者の就農時に課題となる作業場などについての確保に向け、関係機関が連携するような体制づくりを行うとともに、未利用の公共施設・土地を共同作業場などに利用できるよう制度・助成金などを措置すること。また、必要に応じて国に要請すること。併せて、作物別収益性などを整理し、就農希望者に提供するなどの支援を行うこと。
6 農業法人による新規就農者育成のための支援策の構築
農業法人が新たな雇用を行うことは、経営体の安定につながり、農業就業人口の増加や地域農業の振興にも寄与する。独立就農を希望する者が一度、農業法人に就職し、経営体と販売などの関係を維持したまま独立することは、独立初期の経営の安定にもつながり、新規就農者の育成にも効果がある。しかし、雇用経営体の雇用環境や指導環境が一定水準であることが必要となる。このようなことから、新規就農希望者の就農のスキームとして、農業法人からの独立を視野にいれた就職就農の流れを構築できるように関係機関等との連携を強化するとともに、必要な支援を強化すること。また、このような事業を実施できる経営体の雇用環境などの充実や経営者の資質向上などについての支援を行うこと。
7 社会人の就農希望者への支援の充実
就労中の就農希望者について、休日に農作業・経営などの研修を受ける機会をえることは、農業への定着率の向上につながる。そのため、県内の複数カ所において週末農業研修場(仮称)を設置し、働きながら農業研修を行える体制を整備し、研修終了後に、本人の意思を確認し、農地のあっせんなどを行う就農支援体制を構築すること。
8 県農産物の流通の活性化
令和6年度からの制度改正により、トラック輸送においては、長距離輸送のコスト増加などが問題視されている。しかし、首都圏に位置する埼玉県の特性から、この改正が県内の農産物の販売には有利に働くこともあり得る。県産農産物の県内消費を強く推進することで農業経営のコスト増を抑え、新たな販路の構築につながる可能性もある。そこで、関係組織などと連携し、県産県消を強く推進するとともに、物流業界にも強く働きかけること。
9 農業支援サービス事業者の確保
農業経営の効率化には、作業のアウトソーシングや新たな技術・手段の導入などを行うことが必要となる。そのため農業経営に関する様々な内容について、支援を表明している農業支援サービス事業者の情報は有益なものであり農林水産省において、事業者リストなどの整備・公表を行っている。県としても、その情報の拡充のため県内の関連事業者への周知を行うとともに、農業者への情報提供を充実させること。
Ⅳ 農業委員会等への支援
1 農地制度の適正な運用支援
令和5年4月に農地法や、農業経営基盤強化促進法、農地中間管理事業の推進に関する法律の改正法施行など、農地の権利移動に関する制度に大きな変更があった。この運用に大きく関わり、農業者等の相談も対応する役割を担っているのが農業委員会や農業委員会ネットワーク機構である(一社)埼玉県農業会議である。適正な運用を行うためには、法解釈などに対する迅速な対応や協議などを行うことで解決に繋がるため、国・県における相談体制を強化すること。
2 関係予算の交付決定等の迅速化
農業委員会等関係予算について、補助金の適正執行上、交付決定を受けてからの事業着手となるが、機構集積支援事業については、交付決定時期が第1四半期過ぎになるなど、年度はじめからの事業実施ができない状況となっている。そのため、第1四半期前半における交付決定が行われるように事務手続きの迅速化等について、国と調整を進めること。
3 遊休農地措置の効率化
地域計画の区域内における遊休農地については、地域内での利活用を進めることが前提であり、行政計画として策定された地域計画に基づき利用調整などを行うこととなるため、農地法に規定されている農地の利用意向調査の対象からは外すような運用改正を国に要請すること。
4 農業委員会の体制強化のための協力について
農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律の施行により、日常業 務である農業委員会サポートシステムに関する入力や窓口相談対応などの他に、地域計画策定への対応、農用地利用集積等促進計画への対応など、これまで以上に農業委員会業務が増加しており、事務局職員への負担も増えている。また、地域計画の目標達成のための活動についても6年度以降に順次増加し、7年度以降は農地利用最適化業務の中心となり、業務の増加が予想される。このようなことから、農業委員会の事務局体制についての強化が重要となることについて、県としても市町村長等への理解促進を図り、体制強化について農業委員会組織と連携して推進すること。
5 農業委員会ネットワーク機構の体制強化について
農業委員会における農地利用最適化推進活動が増大し、また、農業DXに関して、様々な新たな仕組みが作られている。その支援として、農業委員会ネットワーク機構が相談対応や操作説明などを行っている。しかし、事業として措置していない仕組みについても支援を実施しているのが実状である。法改正などにより、支援内容も多岐にわたることが想定され、そのうえ、昨今は農業委員会と県出先機関との調整や、県からの農地制度や農地利用最適化などの相談対応も多くなっている。これらの状況の中、農業委員会ネットワーク機構の農業委員会のサポート体制を充実強化させることは、今後の農地利用最適化の推進には必要不可欠となる。このようなことから、農業委員会ネットワーク負担金や機構集積等関係予算の拡充や農業DXに関する農業委員会の支援活動経費としての新たな予算措置について国に要請するとともに、県としても体制強化のための十分な支援を行うこと。

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